ガールズ&パンツァー

ガールズ&パンツァー(GIRLS und PANZER)|公式サイト
全話終了。この作品に関わった全ての人に盛大な拍手と花束を。
2012年秋直前に本作の存在を知ってから一般人気に火が点くまでの私の気持ちの変遷はこんな感じだった。

戦車のアニメやるの!?こりゃ見るしかないけど、永遠の鬼門と言われてきた戦車描写は大丈夫か?
→(公式HP)おお戦車はガチか!スタッフにも戦車好きなメンツが揃ってるし、いけるかもしれん!でも監督のコメントで「戦車もちょっとだけ」って…
→(第一話:アバンタイトル後)変な笑顔が止まらないw俺的にこれだけで大当たりだ!一般受けしないだろうけど。
→(第4話:大洗市街戦後)うお、なんだこの爆発的人気はw

それだけに、その熱量を維持するどころか倍加して最終回を乗り切り、かつ綺麗にまとめたスタッフ一同には拍手しかない。
あれだけ多い登場人物なのに、結局「モブで終わった子がいない」という脅威の事実。どのチーム、どの娘もとても楽しく、凛々しく、そして愛らしい。しかもファンが想像する彼女らの背景には必ず戦車達が映っている。監督の「戦車もちょっと出ます」という当初コメントは、そういう意味においては必ずしも間違いではない。表の主役は彼女らなのだ。そして裏の主役は間違いなく、かつて世界の戦場を走り回り、「戦車道」という新しい概念の元で生まれ変わった実在戦車達。
あんこうチームの友情と侠気に惚れ、生徒会三人の気持ちにシンクロし、三突の格好良さと歴女の組み合わせに燃える。練習試合で敵前逃亡した一年生が「猛獣狩り兎」にまで成長したことに感動し、バレー部のスポ根と非力な八九式の組み合わせが相乗効果を生む。後半登場の三式とP虎も少ないながら無理のない活躍シーンを差し込めた。他校のライバル達の気持ちよさ。そして最後にしゃべった丸山嬢(笑)。どこを切り取っても素晴らしい。そして史実(+アニメ的演出)を元にした実在兵器の八面六臂の大活躍と、手に汗握りそれを見つめたファン達。そこはまさに「武道・スポーツとしての戦車道」というハッタリが大成功した瞬間だった。
作品をみればわかるけど、「(例えストパン三期までのミリタリーアニメとしてのつなぎだとしても)ようやく本格的な戦車をアニメでやれる」という喜びと「次はないかもしれない」という気持ちが極めて強かったのだろう。彼等がやりたかったこと、見せたかったこと、表現したかったことをまとめた結果、あまりにも多すぎてバケツから盛大にこぼれている状態だったのが手に取るように分る。おそらく主要制作スタッフと同世代であろう昔からのアニメ好きなら、「戦車をアニメで描く」ことの鬼門度合いを重々理解しているから、さらにその気持ちが理解出来ているはずだ。
もしそのままアニメにしていたらここまでの評価はなかっただろう。素晴らしいのは、「スポ根を軸にした主人公チームのたる女子高生の成長物語(あと少し戦車)」という焦点にぎゅっと絞り、残りは(泣く泣く)切り捨て、それを最後までブレさせなかったことだ。監督と脚本によるこの取捨選択が見事だった。

  • 二期について(物語としての切れ目とは)

最終回直後は「二期は?劇場版は?」と思っていたけど、今は「二期よりもスピンアウト作品かなあ」と思うようになった。物語の軸である少女達のスポ根成長物語としては、きれいにまとまって終了しているからだ。その後の話を改めて描くのはちょっと野暮な気分がある。(「ストパン3期までのつなぎ作品のため、最初から続編の予定はなかった」のが理由だとしても、だ)。勿論、新しいガルパンも見たいという気持ちはとても強い。なら、あらゆる理由で「泣く泣く切り捨てた」要素を使って、スピンアウトを沢山作った方が色々幸せになる気がする。公式の同人化と言われてもいいじゃない。ストパン的世界観展開と同じと思われてもいいじゃない。だって、本格的な「戦車」のアニメは過去になく、それだけおいしい材料が山のように転がっているんだから。ファンによる二次創作が沢山作られても、それでもまだまだ余るに決まっている。

  • 類似企画の絶望感(雨後の竹の子の多くは腐臭がする)

主要スタッフのコメントかなにかで「似たような企画依頼がわんさか来てるけど全部断っている」というのを見た。正解だと思う。おそらく、「人気と金儲け主義のみ」の視点で類似作を作ってもゴミしかできないだろう。あのストライクウィッチーズですら、主要スタッフはあまりミリタリー要素に関心がなく、軍事考証の鈴木さんを主とした「制作陣にいたわずか数人のミリタリーファン」がその水準を維持させたというのは有名な話だ。まして本作は「戦車が好きで好きでたまらないスタッフが集まった」奇跡と、「女子高生の気持ちを丁寧に反映できる優秀な脚本家」という奇跡、そして「商業として成功するため」のバランス感覚と判断、これらがあればこそ実現できた。
類似企画を作るなら、この限りなく高いハードルを本気で乗り越えない限り全てが失敗作。よりミリタリー要素を強くすれば、一般層はあっという間に消えて、口うるさくツッコミしかしないマニアしか残らない。より萌え要素を強くすれば、ミリタリーの意味はなくなる。品質を落として予算と納期を守れたら喜ぶのはスポンサーと放送幹事局だけでファンはいなくなるだろう。後釜を本気で狙うなら、これらすべてをクリアする気概が必須だ。

  • 制作の遅延について(”分割一期”は褒め言葉じゃない)

最後に、様々な理由はあれど納期遅延だけは擁護のしようがない。まあ10話で制作遅延が報じられたとき、ファンコミュニティの大半が「分った、この品質なら待つぜ!」と思わせるだけの作品に仕上がっていたこと、待った甲斐が十二分すぎるくらいあったラスト二話があったこと、この2点があればこそ視聴者としては笑顔で許せるわけだけど。とは言え、社会人なら「納期がどれほど大事か」というのは叩き込まれている。最終二話の放送まで各種イベントでの杉山Pの第一声が「申し訳ない」だったのは、便宜上の事ではなくマジだったはずだ。
…いやでもまあ、これだけのCGで戦車をごりごり動かすという段階で、どうして「週一アニメで12話完走」という計算ができたのか(苦笑)。もしかすると、主要スタッフは「地上アニメで正面から戦車を描けるほぼ唯一の機会」と思って、半ば確信犯的に納期遅延をやったのかもしれないなあ。もとより、2011年当たりから「地上波アニメにおける変則放送形態」(一ヶ月に一本とか、最初は1時間スペシャルとか)が許容されてきたいたのも事実だから、最初からそれを前提にした余裕を持ったスケジューリングも今後は日本地上波アニメの選択肢になってくるのかもしれない。