風立ちぬ

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音と映像はさすがのスタジオジブリとしか言いようがない。ただ、脚本はどうなんだろうか。
宣伝文句としてはゼロ戦の設計で知られる堀越二郎の半生記となっていたけど…正直なところ、これは元ネタ2点を利用した「宮崎駿自身の生き方を自己全肯定する物語」ではないかと思う。「技術馬鹿かつ純愛主義の堀越二郎像」を作ったうえで、それを自分自身の「アニメ馬鹿かつ処女主義の宮崎駿像」に当てはめて作ったとしか思えない。本当に堀越二郎を映画化したのなら、あそこでエンディングを迎えるはずがないし、作品全体が気持ち悪いくらいに洗浄&漂白されてしまっているから、妙な居心地の悪さすら覚えてしまう。*1紅の豚」のころは、「宮崎駿が趣味で作った作品は純粋に面白い」といわれていてまさにそのとおりだった。本作もその傾向のはずだったのに「エンターテインメントは二の次」とばかりにお約束の「空を気持ちよく飛ぶ」というシーンすらなくして作ってしまっていて、自己肯定がひたすらに続く内容だった。
物語展開もけたたましい。現実世界と空想世界がシームレスにつながっている上、自分の見た夢にリスペクトする人物を出現させてそれを無条件に全肯定してしまうという能天気さ。「え、それただのあなたの妄想じゃないか」と思ってしまう観客は、おそらくすでにこの映画の対象ユーザーではないのだろう。劇中、堀越二郎がさまざまな技術者や技術そのものに出会いそれをリスペクトして吸収しているように、宮崎駿自身が学んだアニメ技術へのリスペクトが画面のあちこちにあった。特にあからさまだったのが「ディズニー的な絵作りと演出」だ。それはもう絶対わざとやっていると思うくらいの見せ方だった。
声優は…主人公の声を庵野監督がやっていたけど、さすがにちょっとこれは…という感じ。演技になっていなかった。もちろんずっと耳にすることになるので後半は大分慣れたけど、最後までしっくりとは来なかった。そうそう、エンジン始動音の多くが「声帯模写」のように聞こえて笑えたんだけど、あれ本当にそうだったのかな。プロペラが始動するたびに笑いそうになって仕方がなかったんだけど。

*1:戦争の良い悪いを描くところまでは不要だけど、堀越の半生記なら戦後の動向も描くべきだった