ハイスクール・フリート(はいふり)

今季終了第三弾。「やりたいこと」と「やれたこと」の乖離がひどい作品。
本放送が開始されるときに、スタッフを見て「ああ、今度は大戦期の艦船ネタがやりたいのね」と思うと同時に「でも鈴木さんってミリタリーエピソードを混ぜるのは上手いほうだけど、物語を作る人としては正直微妙すぎる」とも思った。それを補完するために吉田玲子さんのヘルプを仰いだのだろうけども…。先に書いておくが、ミリタリー系アニメとしては期待していた…上記の不安が当初からあったのは疑いようのない事実でもあるけど。
結論から言えば、吉田さんがフォローをしてもなお全然だめだった。つまり「大戦期戦艦物を女の子を絡めてアニメにしたい!」という初期衝動だけで、「ではどうやって物語を組み上げるか」の議論がまったくなされていなかった作品。土台と骨組みがあまりに脆弱だから、いくらベテランがそこに化粧板をくっつけてもあっさりと剥がれ落ちてしまう。本当なら話の軸になる”反乱行動”ですら「宇宙人?→ネズミテロ?→研究者の暴走?→単に研究成果の取り残し」で肩透かしだし、そのプロットすらと天才美幼女医師が現場で作ったワクチンであっさり解決。汚染艦突入ですら被害ゼロの無敵無双ぶり。当然、そこにはクルーの葛藤や戦争行動の厳しさなんてあるはずもない。
ゆえに本来なら燃えるべきシーンである「トップを鼓舞するために、各部門が応答をする」ところも、背筋が凍るほどに上滑りしていて苦笑しか出なかった。対照的に思い出したのが、同様のシーンがある名作アニメ「オネアミスの翼」。そのラストでは、主人公シロツグが搭乗したロケットに発射中止命令が下る。しかし、それでも何とか宇宙に上がろうと普段からは想像もできないほどに暴れてあがき叫ぶシロツグに対して、はいふり同様の各部門からのコールシーンがある。そして、このシーンは本当に熱い。それまで登場人物たちの苦しみや苦労が視聴者にもわかっているからだ。だからこそ「よっし!」と共感が持てるのだ。だが、はいふりは「学生艦で駆逐艦なのに、なぜか苦労も被害もなく、うまいことクリアして楽しい艦内生活を繰り返す」だけだ。なので艦長のビビりも「何をいまさら」とため息しか出ず、今更何をこびているんだとすら思ってしまった。
最後に乗艦がああいうことになる。おそらくあれは原作の鈴木氏が描きたかったシーンなのだろう。いわゆる「戦場浪漫」の定番シーンだ。これまで一緒に戦った自分たちの船が沈んでしまう悲しみと、それを敬礼で見送る兵士…いやさ学生のシーンが見たかったのはわかる。同様に、各種様々な海戦シーンに限って言えば、「ああ、これがやりたかったのね。まあそれなりに楽しめるな」という及第点の内容だった。だが本当に「それだけだった」ことが、本作最大の悲劇だったと思う。
結局のところ、鈴木氏の趣味全開にした戦場ドラマに特化した血と汗と硝煙漂う物語にするか、ないしはオタク受けする「楽しい美少女ユリ軍艦アニメ」のどちらかに思い切り倒したほうがよかったのだろう。だが、そこに余計な知恵を入れ込んだせいで最悪の料理が出来上がってしまった。題材は悪くなかったこともあり、返す返すも残念な結果としか言えない。