ガールズ&パンツァーの成し遂げたこと

11/30-12/2の大洗イベントを見に行こうかなと思っていたけど、色々あって諦めた。まあ現地情報で「朝の8時段階で駅の整理券全滅」とか「ガルパングッズは大半が売り切れ」とかを見る限り、無理に行かなくて良かったのかな、とも思ったり。とは言え、まだ放映中の一オリジナルアニメ、しかも傾向がかなりマニアックなものだというのに、この盛上がりは凄いを通り越して異常とすら思えてしまう。
ガルパンが受けた理由は戦車だけではなく、水島監督と吉田玲子脚本のバランスの良さもあり、ミリタリーに全く興味がなくても「熱血王道物」として受け入れられている面もある*1。それはそれでうれしいことだ。
しかしそれ以上に古いアニメファンからすると、このアニメが成立していること自体に時代の進化を感じている。

1.「週一アニメで、ぐりぐり動く戦車が描写できている」
アニメ作画の定番に「自転車と戦車はとても無理」というのがある。自転車は車輪のスポーク、戦車は履帯(キャタピラ部分)の作画が細かすぎてとても描けないしパースバランスもつけにくいからだ。せいぜい、止め絵で出すか、そう言う部分を見せないように出すか…それが当り前だった。昔、ジブリマッドハウス*2が「アンダルシアの夏」で自転車レースをテーマにアニメを作ったが、前述のことを知っていたファンは「マジ?」と驚いた物だった。そういう理由もあって、可動部分が少ない戦闘機や戦闘艦が描写されることはそれなりにあっても、戦車が描かれることは滅多になかった。
さてCG導入が主流になり、さらに3Dモーションも可能になり「これで実現できる」と思いきやさにあらず。実際の物理エンジンを噛ませば確かに「実際と同じ動き」にはなるが「アニメ映えする絵にはならない」ことがすぐに判明し、結局オペレーターかミリタリーマニアな作画担当が一つずつ手直しすることになってしまった。
だからこそ、ガルパンで戦車が元気よく動き回ること、しかもその動きが非常に細かいところまで再現されていて見栄えもするというのは、週一アニメ歴史史上物凄いことだったりする。勿論、これは簡単にできている物ではなく、CG担当会社と担当者が血を吐く気持ち&ミリタリーファンとしての矜恃で作り上げている映像であることには違いがないけど。でも、それが本当に実現できていることが物凄いことなのだ。

2.「子供向けアニメで、軍用兵器が大手を振って描写されている」
日本人の過剰なまでの戦争アレルギーは皆さんよくご存じと思う。ましてや「アニメは子供の物」という概念が強い方々が上層部にいる時代は、「戦車を子供向けアニメに!?気でも狂ったのか!」なんてのは当り前。鉄砲「みたいなもの」や、戦闘機「みたいなもの」を描くのがせいぜいだった。時折ミリタリー好きなスタッフの遊び心で現有装備に書き換わることもあったけど当然大量に描けるはずもない。さらに鉄砲は「キャラの性格づけ」の小道具になるし、戦闘機は「大空を飛ぶ」という人類共通の夢とかっこよさがあふれているので比較的採用しやすい。しかし戦車は二次元空間しか移動できないし極めて泥臭く、その格好良さは結構玄人向きだ。可動部分が多く作画が大変だからなおさらだった。
しかし徐々にその意識は薄れてきており(勿論、十分すぎるくらいな過剰反対派はいるけど)拳銃や戦闘機はかなり解禁されたと言える。最後の砦が戦車だったわけだが、ガルパンによってその壁は事実上崩されたと言っても良いだろう。

3.「戦車ファンの掘り起こしに成功」
正直、戦車のスケールモデルが好きな人やその業界にとって、現在の状況を想像した人はどれくらいいただろうか。「男の子なら、必ず一度は戦車や戦闘機に興味が出る!」というのは世界共通でよくある話だが、日本ではその立ち位置に「ガンプラ」が入ってきてしまった。ガンプラ自体が戦車や戦闘機の運用と同じように描写されているので、ある程度の親和性が高かったとは言え、ガンプラからミリタリーモデルに流れる人はかなりの少数派だったろう。
ただ、「それでも男の子は戦車が好きなんだよ!」と信じて疑わず、成功させてしまったケースがある。それが、海洋堂食玩シリーズの一つ「ワールドタンクミュージアム(通称WTM)」だった。WTMも企画当初は鼻で笑われていたが宮脇”専務”が強力に推し進めた結果、第一弾は発売と同時に全国で瞬殺という凄い状況になってしまった。ただ、このときの「食玩ミニスケール戦車」で利益を得たのもほぼ海洋堂だけだった。他のいくつかのメーカーも同類の食玩をリリースしたが海洋堂品質の域に届くには遠かったし、プラモメーカーはさらに縁遠かった。
ところが今回はスケールモデルを作ってきたプラモ業界にとって、最初で最後とも言えるビッグウェーブ状態になっているようだ。数ヶ月前までおもちゃ屋の片隅で埃を被っていた戦車プラモが、全国各地で売り切れ状態になっている。しかもガルパン仕様でないにもかかわらず、だ。もともと昨今の戦車マニア向けに作られているモデルばかりなので、ガンプラよりも細かく精緻で初心者にはハードルが高いモデルばかりなのはご愛敬だが(心さえ折れなければ、どうにかなるけど)。一過性なのは間違いないだろうけど、その時に幾ばくかでも戦車に、スケールモデルに興味を持ち続ける層がいてくれることを心から祈りたい。

*1:この認知のされ方は、第3-4話で盛上がって熱血王道に火がついたシンフォギアにもつながってくる

*2:訂正。お気に入りコメントで指摘いただいた方、感謝です。