ハイスコアガール・著作権問題

押切蓮介が連載している「ハイスコアガール」について、著作の中のSNK関連について許諾を得られておらず、交渉も不調のまま著作権侵害として刑事訴訟になってしまったという案件。権利にうるさいスクエニがなんでこんな初歩的な事を…と思うが、出版業界自体自分のみを守る事以外は「なあなあの商慣習」ですますところも多いからなあ。(その割を食うのが作家やライターばかりだけど)。
どうこう言っても警察沙汰になって裁判になると思う。裁判は一種の情報戦でもあるため、今後双方から公式の形で詳細が出る事はほとんどなくなると思う。マスコミの憶測やネットのデマ、部外者の想定ばかりが流れてくるのでこの件を追いかけたい人は注意すること。

  • 責任の所在1

現時点ではスクエニ編集部側の怠慢が最大の原因と思われる。漫画の背景やポーズのトレス疑惑で作家が糾弾される事があるが、これは編集者側も確認するのが困難なので一概に非難はできない。しかし今回のように権利問題が発生する事が明々白々な場合は、当然編集部側がしっかりと対応して許諾を得ることが当然だ。それを前提に作家にGOを出すのだから。一部には作者自身を糾弾している人もあるようだが、この件についてはむしろ被害者だろう。連載前には「これ版権かなり大変だけどいけますか?」という問い合わせは絶対にしているはずで、それに対して編集部が(実態はどうあれ)OKと回答したに違いない。でなければ、同人活動とは訳が違う商業活動で見えている地雷を突っ切るようなまねを作家がする訳もなく、そんな暴走を編集部側が許すはずもない。

  • 責任の所在2

ただスクエニ側は数少ないコメントで「問題がないと考えている」と発言したらしい。仮にこれが正しいと想定する場合、想像できる可能性は「SNK側の版権管理の煩雑さの可能性」も要因の一つではないかと思う。SNKは確か過去に会社がつぶれてはどこかにブランドごと引き取られるというのを数回繰り返しているように記憶している。その度に、権利の散逸や分散が(望む、望まないに関わらず)発生して、最終的に誰が権利を持っているのか分かりにくくなっている可能性がある。スクエニ編集部もそこが大変と判断して、「版権エージェント」に当たり、「SNK関連の権利を持っている人か組織を確認して、許諾を得て欲しい」と依頼し、おそらくその作業が完了した。スクエニ的にはそれでOKのはずだったが、実は現在SNKブランドを持っている会社も権利を主張していて「お前が契約したのは偽物だ。本当は俺らに権利がある」と言い出した可能性が想像できる。

  • SNK側の戦略

要求は販売停止らしい。が、これは出版業としては致命的すぎる。同時にその事はSNK側も理解しているだろう。おそらくこれは「最初に一番厳しいレベルの対価を要求し、交渉を重ねる中で少しずつハードルを下げて本来の要求に届かせよう」という交渉戦術だろうと思われる。スクエニ側はそれを無視したのか、そういう交渉になる事が想定できたので交渉をしなかったのか、あるいは先ほどの想定のどおり「俺たちはちゃんと権利をとった」の一点張りだったのだろう。しびれを切らしてSNK側が今夏の手続きを行ったように思う。

  • (C)マークについて

ネットを見ると(C)があるから許諾得てたんだろう、という声がいくつか見た。しかしこれは許諾とは全く関係がない。あまり知られていないが、(C)を記載するだけなら何の権利も許諾も必要ない。いわば「ちゃんと他社/他人の著作物である事をわきまえてますよ〜」と勝手に言っているにすぎず、あくまで商慣習的に記載しているだけだ。だから、「(C)があるからちゃんと交渉して許諾してもらっていると思った」というのは純粋な誤解である。

  • 回収について

すでにスクエニは一時的に回収手続きに入ったという。電子書籍は「購買権利を強制返却してもらい、代金を戻す」という対応らしい。では書店在庫も強制返品なのか、というと実は例外が多い。過去にも「回収」された本は多いが、返本に関わる手間や金銭処理等を考えると、本屋としては売ってしまった方があらゆる意味で楽だからだ。故に、店頭在庫はとっとと売ってしまうはずだ。(もちろん要請に応じて返品する店もあるだろうけど)
好きな作品で近々最新刊もでると聴いていたので、この件は非常に残念だ。