図書館戦争

図書館戦争

図書館戦争

以前、店頭で見かけたときは持ち合わせがなかったためスルー、それっきり忘れていたんだけど、先日本屋に行ったところ平積みされていたので「再販かなあ。まいいや」と購入。そして1ページ目を読み始めた瞬間に違和感が。すぐに調べたらそれは新発売のシリーズ2巻目でしたとさ、というオチ。で、改めて1巻を探して読了。やっぱり有川浩の文体は肌に合うことを再認識。
有川浩の書く物語は、ストーリーラインだけ見ると極めてありふれた内容であってそれこそ予定調和にあふれている。ただ、それをリアリティがないと切り捨てるのは野暮ってもので、素直に楽しむのが良いと思う。良い感じにカタルシスもあるし。ただ、世間のライトノベルや少年向け小説に対して、有川浩の違う部分が一つある。ライトノベルでは「硬直化した大人の考えに対し、少年の思いが勝る」というものが主流なのだが、この作家は一貫して「子供の戦いを見て、大人達は(自らの若い時代の青臭さを思い出して苦笑しつつ)大人の社会で闘うと言うことがどういう事かという"現実"を教え、子供は現実を学んで前に進む」という書き方をしている。子供の青臭い考えは、微笑ましいと思いこそあれど、決して無敵の伝家の宝刀ではなり得ないことを「世間はそれほど甘くない」という言葉と共に大人達は知っている。それを前提として、大人達は若い人たちを支えてゆく・・・という見せ方。主人公側の大人達が皆出来すぎているという議論はあるだろうけど、こういうキャラの立ち位置で書かれたライトノベルは結構少ないと思う。
それにしても、この物語の内容は正直笑えない。今の日本に対する風刺小説じゃないかと思ったりしたし。現代日本において「一見、耳障りの良い法案名で」「国民に影響力が大きく」「恣意的運用が容易で」「新たな強権機関が生まれる要素があり」「民やマスコミがあまり関心を持たず(あるいは意図的に無視して)」「ヤバいと気がついたときには手遅れで大変になる」要素のある法案は、ここ数年で沢山出てきている。例えば「介護保険法」「漫画・アニメ・ゲーム表現規制法案」「児ポ法」「人権擁護法案」etc。また、法案にならずとも関係業界に圧力をかけることで「自主規制」と称する事実上の禁止令と同じ効力を発揮することも多数ある(日本の業界(マスコミ含む)は権力と権益団体には弱いからねえ・・・)。ナチスドイツ時代の規制についてはマルチン・ニーメラー牧師が有名な言葉も残している*1。ホント、そんな世の中にはなってほしくはないもんだけど*2

*1:「教会が弾圧対象になるまで「関係ないから」と無視していたら、全てが手遅れになってしまった」というもの

*2:国家による過保護社会って、ようするに個人も家族も社会も全て一切信用に値しない社会であり、無責任と要求のみが声高に叫ばれる社会でもあるわけで・・・酷いもんだ