図書館危機

図書館危機

図書館危機

有川浩の「図書館」シリーズ最新作。相変わらず「組織(特に自衛隊系)&プロフェッショナルな人々の描写」と「緊張感ある戦闘描写(リアル戦闘&情報戦闘)」を、リアルとファンタジー(ライトノベル)のバランスを取ってドラマティックに魅せる文を書くのがうまい。勿論「緻密さが足りない・ご都合主義に過ぎる」という評価は以前からこの作家にはつきものであり、今作もそこはつっこみポイントではあるけど、少なくともこの作家が書きたいことを読ませたい人に伝えるには、(狙っているわけでもないんだろうけど)非常にうまくいっているんじゃないかなと個人的には考えている。何より、楽しく読めますもん。ハラハラ・ドキドキ・たまにジーンともできますし、何より信念を持って戦う人/組織に対して深い愛情を持って書ききるのがこの作家の好きなところ(それが世間や政治からないがしろにされていればなおのこと。自衛隊好きですしね、この作家さん。)。また、このシリーズは日本国内において「極めて重要かつ問題あるテーマだけど、国民やマスコミ注目度が何故か低い」テーマをうまく劇中アレンジして物語の軸にしているけど、そちらも相変わらず健在。(例えば、国家による表現統制から始まり、メディアの偏向報道人権擁護法案、そして今回は言葉狩りに端を発する"良識人"と称する人々による「言論統制」)これら、ただのフィクションと思われる内容は、ちょっとネットで調べてみれば、実は今の日本でリアルタイムに浸透しつつある現象でもあるから、読んだ人は是非調べて欲しいと思う。色々面白いところが見えてくるはず。
余談だけど、なぜそのようは大きな問題なのに知られていない物が多いのか。それは奇しくも作中で作者が書いているように、目に見え自身の体が痛くなるまでは知らんぷりする「国民自体の無関心さ」に問題があると思う*1。恋愛話でも『好意や悪意があるうちはまだ良い。無関心になったらおしまいだ』とよく言われるけど、政府やマスコミの方法はそれを逆手に取ることによって「無関心なうちに都合の良いことを通してしまえ」という方法論がまかり通っているのが現状。最近の一番良い例が「ホワイトカラーエグゼプション」であり、これを知らない社会人がいかに多いことか。知っていても「範囲外だから関係ない」と思っている人がどれほど多いことか*2。勿論、知ったところで理想論的には世の中うまくいく物ではないし、同様の結論は作中でも堂上教官らも発言している。でも同時に、そこであきらめてしまっては意味がないことも登場人物達は叫んでいるし、それはとても単純で大切なことでもある。10代の人たちがこのシリーズを読んでどう思っているのか、興味が尽きない。
そして次が最終巻。恋愛模様の決着はともかくとして、「メディア良化法案」自体の撤廃に至るはずはないから、どういう形でラストを迎えるのか、そして「様々な人の想いを受け継いだ」プロの組織のその後がどうなるのか楽しみに待ちたいと思う。あと今更ながら、この本のテーマである宣言文→http://wwwsoc.nii.ac.jp/jla/ziyuu.htm日本図書館協会のHPより)。実際には、色々と補足文があるんですな。

*1:ドイツの牧師、ニーメラーの警句にあるものと同じです。

*2:法案導入時はわざとハードルを一般圏から離し選挙に勝ち、その後に法改正で一般圏に引き戻す方法は、日本では良くある手法です。導入先進国であるアメリカでは、今や「週休455ドル以上」ですよ。円ドル換算して年収を計算してみてください→FX・外国為替 - Yahoo!ファイナンス