スカイ・クロラ


原作未読。押井作品にしては、ずいぶんと表現を押さえた映画だと思う。静穏状態の長回しがここまで多用されるとは思わなかったし(その表現自体は問題なし)。作中のCG部分については一切不満がない。ProductionIGの最精鋭部隊を叩き込んだんだろうし、背景やレシプロ戦闘機同士の空中戦にしても、これ以上の品質を望むのは贅沢だろう(キャラの平板さとのギャップがさらにCGの出来を際立たせているとも言えるけど)。静かなシーンについても、かなり集中して見続けられたことを考えれば、映像自体がきっちりしまっていたんだと思う。・・・ただ、ちょっと睡魔に襲われかけているひとだと、間違いなく一発で撃沈されると思う。そういう間がある映画。
物語のテーマについては、原作未読の自分としては物語終盤まで明確にはよく分からなかった。見終わる頃にはなんとなく物語の裏設定は分かる気はしたけど、あとでパンフを読むとまだまだ理解し切れていない点が多かった。というか、これって実世界?それとも電脳空間?パイロットが死んだら、記憶以外はコピー同然のキルドレが再配置されるってのがどーにもよく分からない。生身なら、そうホイホイとクローンが出来るはずもないし、電脳空間なら「リアルな死が必要」というテーマ自体が否定されてしまう。このあたりは、一連のスカイクロラ原作を読まないと分からないのかな。
とはいえ、「他人の作品を自分色に染め上げてしまう」監督の得意技は相変わらずのようで(苦笑)。それまで口数の少なかった草薙さん*1が「戦争&平和論」を急に饒舌に語り出したときは思わず笑ってしまった。パトレイバーの頃は都市論を集中的に考えていたようだけど、最近押井監督の著作やインタビューを見ていると「戦争論」により比重がかかっているように思えていたし、草薙さんが語った「平和維持のための必要な戦争」というのは、監督の持論と似ている部分が多々ある。まあ、少なくとも何も考えずに「平和」だの「非武装都市宣言」「仮想敵もいないのに戦力不要*2」とか叫んでいる人よりかは遙かに説得力がある。
ただね押井さん、これで大ヒットはムリだと思いますよ・・・やっぱ。

*1:名前が「草薙水素」って、攻殻機動隊の「草薙素子」とアナグラムかなんかあるのか?ただの偶然?

*2:はっきり敵がわかってから軍備を揃えても意味がないことが分からないらしい。軍事はどれも”特殊技能職”なのだから。