デトロイト・メタル・シティ

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まさか人情話で泣かされるとは思わなかった。前評判とか聞いた限りでも「成功した馬鹿映画」というものが大半だったから油断してた。まあ、原作の完全準拠というわけではないので、「純粋に原作の馬鹿話の実写を見てみたい」という人にとってはちょいと肩すかしになってしまうとは思う(そう言う人は、アニメ版をお勧めということなんだろう)。とはいえ、過去の日本映画の中で、いかにもマンガチックな作品の実写化をここまで見事に組み上げた映画は非常に珍しいんじゃないだろうか。実際、クラウザーさんの演技は見事としか言いようがなかったし、対存在としての根岸君のキモさも見事だった。正確に言えば、原作の馬鹿ネタも一部は残ってはいた。まあ、選出されたネタはどれも(比較的)ソフトな物ばかりだったけど。映画としては、「人の心に響く音楽」というテーマを主眼に置いたのは明確であり、作品を最後まで見た限り、その選択は正解だったと思う。出演人の豪華さはいまさら言及する必要は無いと思う・・・けど、初見だと「あれ?どこかに出ていたっけ?」と思うこともある。特にライブシーンは背景が暗いからよく分からんのよね。あと、宮崎美子は役者として良い年輪を重ねていると本当に思う。
とはいえ不満もある。その中で最大のものは、コンサートシーンでは「声がまったく前に出てこない」ということ。実際のライブ感を表現したかったのかもしれないけど、音楽が聞こえなければ今ひとつ乗り切れなかった。これは音楽映画として見た場合はとても残念。そしてラストの「原作から完全に切り離された瞬間」のあの台詞。ギャグとしてはありっちゃあありなんだろうけど、「ミュージシャンのライブの最中に、私情を理由にあーゆーことする」のはどーかと。立場的にもちょっとありえん。

スカイ・クロラ


原作未読。押井作品にしては、ずいぶんと表現を押さえた映画だと思う。静穏状態の長回しがここまで多用されるとは思わなかったし(その表現自体は問題なし)。作中のCG部分については一切不満がない。ProductionIGの最精鋭部隊を叩き込んだんだろうし、背景やレシプロ戦闘機同士の空中戦にしても、これ以上の品質を望むのは贅沢だろう(キャラの平板さとのギャップがさらにCGの出来を際立たせているとも言えるけど)。静かなシーンについても、かなり集中して見続けられたことを考えれば、映像自体がきっちりしまっていたんだと思う。・・・ただ、ちょっと睡魔に襲われかけているひとだと、間違いなく一発で撃沈されると思う。そういう間がある映画。
物語のテーマについては、原作未読の自分としては物語終盤まで明確にはよく分からなかった。見終わる頃にはなんとなく物語の裏設定は分かる気はしたけど、あとでパンフを読むとまだまだ理解し切れていない点が多かった。というか、これって実世界?それとも電脳空間?パイロットが死んだら、記憶以外はコピー同然のキルドレが再配置されるってのがどーにもよく分からない。生身なら、そうホイホイとクローンが出来るはずもないし、電脳空間なら「リアルな死が必要」というテーマ自体が否定されてしまう。このあたりは、一連のスカイクロラ原作を読まないと分からないのかな。
とはいえ、「他人の作品を自分色に染め上げてしまう」監督の得意技は相変わらずのようで(苦笑)。それまで口数の少なかった草薙さん*1が「戦争&平和論」を急に饒舌に語り出したときは思わず笑ってしまった。パトレイバーの頃は都市論を集中的に考えていたようだけど、最近押井監督の著作やインタビューを見ていると「戦争論」により比重がかかっているように思えていたし、草薙さんが語った「平和維持のための必要な戦争」というのは、監督の持論と似ている部分が多々ある。まあ、少なくとも何も考えずに「平和」だの「非武装都市宣言」「仮想敵もいないのに戦力不要*2」とか叫んでいる人よりかは遙かに説得力がある。
ただね押井さん、これで大ヒットはムリだと思いますよ・・・やっぱ。

*1:名前が「草薙水素」って、攻殻機動隊の「草薙素子」とアナグラムかなんかあるのか?ただの偶然?

*2:はっきり敵がわかってから軍備を揃えても意味がないことが分からないらしい。軍事はどれも”特殊技能職”なのだから。