Pixy社長blogに見る著作権の問題

- エキサイトニュース
http://anime-antena.seesaa.net/(こちらの5/6〜14のエントリ)
http://anian.just-size.net/(制作会社:アニメアンテナ委員会OHP)
アダルト系の話題は抑えめにする方針ではあるけど、かなり興味をそそられたテーマなのであえて。(18才未満の人は、Pixyさんのサイトには行かないように〜。行くのは大人になってから)
違法サイトによる極めて致命的な経営への影響について、その本音を吐露した社長のブログが話題になっている。詳細は、エキサイトの記事やご本人のblogエントリをご覧いただければと思うが、違法サイトによる被害をここまではっきりと、かつお為ごかしなしに会社サイドから発言されたのはおそらく初めてのハズ。しかも、「P2Pも当然問題だが、今回は違法サイトでの発売日に複製データを無料DLさせること」と来た。・・・というか、P2Pなら知っていたけど、そこまであからさまなサイトが存在していたことにビックリ。・・・いや、まあちょっと考えればどっかでやってんだろうとは想像できるけど。さて。
今回の一件を「キモイエロヲタが騒いでるだけ。むしろラッキー。すべて潰してしまえ」等と叫んでいる人も結構いるようだけど、まるで本質が見えていない(というか、見ようとしないのか、考える思考力もないのか)。昨今、「キモイから逮捕」がそのまま法律になりそうな状況があるけど、そのときの「俺には関係ない」(関係ありすぎなんだけど)と思考停止していることとまったく同様の状況になっているのが非常に恐ろしい。この問題は、Youtubeニコニコ動画で問題になった著作物とデジタル時代の弊害について、もっとも深刻な形で問題になってしまった話なのだ。これは、ネット上に上げることが出来るすべてのコンテンツ・情報についても、同じことが発生していることを意味している。「ネットは世間」になっていて、普通の社会と同様善悪が多くあるわけだが、この件は悪いほうに思い切りぶれてしまった例である。
さて社長の意見はおおよそ次の通り。

  • 発売当日に『アニメをまるごとアップロードし、無料でダウンロードさせる違法サイト』が存在し、その影響が極めて深刻かつ悪質である。(P2Pも同様だが、このサイトによる被害は桁が違う)
  • この状況が続けば、年内にはアダルトアニメから完全撤退以外の選択肢はない。
  • どうか犯罪組織に手を貸して共犯になるのではなく、商品を買って欲しい。

どれも当たり前の話である。ただ、パイが小さい上ニッチな業界、そしてPixyという会社体力からすると、本当に洒落になっていない状況でもあるという。そして、間違いなくそれは事実のはず。
これに対するblogコメント上での反論は次の通り(社長への同意もあるけど、残念ながら少数派)。

  • 2,000〜3,000円なんて高すぎて購入できない。
  • つまらない作品なので、こうなって当たり前。面白い作品なら購入者が多いはず。
  • ならグチなんて溢さず辞めればいい。ばかばかしい。
  • 犯罪防衛策を取らない会社側が悪い。訴えたり、セキュリティかければいいじゃないか。それがムリなら諦めろ。

居直り強盗の理屈以外の何物でもないことは、残念ながら書いた本人は理解していないだろう。しかも、曲がりなりにも18歳以上の社会人が、である。金額設定についてはコメントする気すら起きない。犯罪防衛策を取ればソフト価格が跳ね上がる。つまらない作品ならそもそも見るはずがなく、面白い作品ならさらに違法DLをするに決まっている*1。価格の話は反論する気すらない(幼稚園にアメ売っているとでも思っているのだろう)。つまり彼らは最初から購入する気がないのだ。しかも、それなら違法DLもせずにスルーすればいいのに、わざわざ違法サイトから無料DLして"すべて"を見た後に「つまんない。金払う価値ないよ」と偉ぶるんだから、さらに始末が悪い。たかが2〜3,000円である。買って見て気に入らないなら中古屋に売ればいいだけなのに。「人気ないからなくせばいい」というのも暴論。本当に人気がないなら、わざわざ違法DL行為を行うはずもない。そして自然と消えていくことになる。しかし、実際はそうではないらしい…少なくとも「多数の客がHPを訪れるだけの魅力を持ったコンテンツ」ではあり、その客達がソフトを購入してくれれば、少なくとも会社として商売が成り立つと判断できる規模なのだ。「自分達が見たいと思うものを作ってくれている会社を、自分達で叩き潰そうとしている」ことに気がついていないのは、あきれるという言葉すらもったいない。見たいなら、お金を出せばいい。毎月購入している同人誌やエロ本&フィギュアの金額を考えれば、かなり安いのだから。

ちなみに、通常のアダルトアニメの相場はおおよそ8,000〜10,000円。アダルトゲームと比較してもかなり高い。が、この金額はこれまでの歴史と経緯の積み重ねの結果でもある*2。ネットが普及する前のそれこそVHS時代から、アダルトアニメ等は違法ダビングの餌食になっていた*3。アダルト系は実写・アニメにかかわらず素材の使い回しやマルチ展開なんてものとは全く縁がないため、100%ソフトが売れてなんぼの世界。しかも、ハンディビデオと男優/女優/監督が入れば、最悪でもどうにかなる実写系と違い、アニメ系はテーマがエロであること以外は通常のアニメ制作とまったく同じ=必要な金額や行程も通常アニメ並みに必要となる。ゆえに当時も違法コピーは死活問題だった。ゆえに「コピーが増える→売上落ちる→単価が上がる」という単純なスパイラルが発生していた結果、この価格になっている。幸い、今では「レンタルビデオ卸の売上があるから、生き残っていける」という状況ができあがっており、なんとか首の皮一枚で続けていられるのが現状。
さて、Pixyはどうか。ここの平均価格は「約2,000〜3,000円」。しかも30分フルアニメ。パッケージ以外にダウンロード販売があるからそこで梱包&人件費が抑えられると言っても、かなり気が狂った価格設定としか言いようがない。しかも「安かろう悪かろう」の内容と思ったら結構な品質が維持されている(各作品への好き好きはあるだろうし、セル枚数を抑えつつヌケる映像を作る演出をかなり考えているけど)*4。しかし、Pixyは"アダルト系ソフトの命綱"たるレンタル卸をやっていない。詳細は分からないが、どうもエロ業界の流通にも色々"政治"があるようで、弱小&新参&後ろ盾なしのPixyはレンタル流通に商品を乗せることが出来ないらしい。・・・つまり、本当に「ビデオの実売だけが利益の100%」なのだ。これは考えるに恐ろしすぎる(社会人なら理解できるでしょ)。逆に言えば、「流石に18歳を越えた大人が買うんだし、ニッチな業界であることも理解してくれているだろうから、この価格設定なら買ってくれるはず」と客層を信じてくれていたといえる。そして、残念ながら見事に裏切られてしまった。これは、社長自身も無念きわまりないだろう。
願わくば、この声を聞いて改心してくれるユーザが増えてくれることを強く願う。

*1:というか、アダルトソフトに「つまらない」も「面白い」もない。問題は「ヌケるかどうか」だけなのだから。

*2:この辺りは、レンタルソフトとの攻防と価格戦争があったPC88〜98時台のPCソフトと同じ状況。

*3:このころはレンタルビデオを犯罪幇助集団とまで断言する声すらあった。

*4:初めてここの商品を見たとき、自分もさんざん疑った。