ゲート―自衛隊彼の地にて、斯く戦えり(5)冥門編

ゲート―自衛隊彼の地にて、斯く戦えり〈5〉冥門編

ゲート―自衛隊彼の地にて、斯く戦えり〈5〉冥門編

一度完成したけど震災の影響で変更したという最終回。地震部分の描写は極めてあっさりながされていて、なおさら元々の内容が気になってしまったり。ネットを見る限り火山だなんだの記述もあったから、もっと詳細に色々描いてあったんだろうな。そして、相変わらず読み始めたときに「えーと、この名前のこいつは誰だっけ?」をやり直す作業…どうもキャラが多く印象も薄く名前がややこしいから、覚えられないんだよなあ。。
さてめでたくのラストとなったけど、最終巻の評価はちょいと低い。それは数多のキャラを出し過ぎてその風呂敷を畳むことで精一杯になってしまい、主役チームのそれにはまったく触れられず終わってしまったことだ。言うなれば、最終巻は「サブキャラの片付け編」とでも言うべきもの。元自衛官の作者らしく全員にハッピーエンドは与えず、生くるものは生き、死すものもそれぞれの運命を全うして死んでいる。しかし、主人公チームは大きな政治や陰謀に巻き込まれた大駒の一つとして扱われてしまい、作者自身も非常に動かしにくいような印象を感じた。何より、結局「誰を選ぶのか」というラノベ的展開なら一番重要視される要素がすっぽりと取り除かれている。そしてそれはエピローグを見る限り、描かれていない4年間でも解消した雰囲気でもない。ということは、作者はもとよりそこはあまり重要視していない要素だったのかもしれない。ようするに、ファンタジー世界で自衛隊が戦ったらどうなるかな〜という無邪気な発想そのものが出発点なのだろう。
作者が親切なのは、最終回にしてファンタジー側世界の住人に、彼等だけの力で決着を付けさせたことだ。最後まで自衛隊の介入と協調で得た勝利であれば、おそらく終戦後のピニャの治世はかなり厳しいものになったはずだ。そこを彼等だけの戦力で戦わせ勝利したことは非常に大きい。そこは評価したい。
自衛隊や政治やマスコミや諸外国の動きについては、若者向けラノベとしては異常とも言えるくらい現在の日本を反映した内容になっている。ネットの一部には「ネトウヨと同じことを言っている」と揶揄する風潮もあるようだが、むしろ今の日本にこういう自衛隊を”軍事面”で肯定的な視点で扱い、それを補佐しない国やマスコミのあり方について疑問を呈する内容を描く作品が相対的に極めて少ない状況と、それを安易に支持する発想がまん延していることこそが異常と感じる。「軍隊を軽視する国家は滅びる」というのは古代時代から語られる教訓だが、それを地で行っているのが今の日本だと思う。
さて、続編があるかどうか。少なくとも隔絶された四年間はネタになる。補給が尽きた現代軍隊が4年の間何をするのか…まあ戦いがないならないなりに、軍隊…特に災害救助能力を持つ自衛隊には生きる術はあるはず。ただファンタジー世界で4年間戦争がないというのも厳しいし、資源を多く見つけていたとしてもそれを採掘精製する設備は準備できていないはずだから、やはり戦闘で自衛隊=緑の服の人は徐々に不利になってくるはずだ。当然、評価も下がり驚異度も下がってくるに違いない。その時に、彼等がどう動くのか。これは戦国自衛隊の亜流として面白みがあるのではないだろうか。何より、四年後には再びゲートが開かれることは本作ラストで確定しているのだから、作者も読者も安心して読み続けることができるはず。ぜひ、それを期待したい。